巡航モデルに第3軸を足す ── 「空間転移」という思考のワープ

以前、巡航モデルとして「高度(altitude)」と「速度(speed)」の2軸で思考状態を整理するモデルを書いた。

👉 https://www.mncc.info/cruise-model-second-axis-altitude-speed/

このモデルはかなり使い勝手がよかった。
どの高さで考えているか、どの速度で処理しているか——その2軸だけで、思考の質や状態をある程度クリアに説明できた。

ただ最近、自分のログを見返していて、どうしても説明しきれない挙動に気づいた。

それが 空間転移 と呼ぶことにした現象だ。


高度と速度では説明できない動き

巡航モデルの前提として、思考の変化は基本的に連続的だ。
高度が上下する、速度が増減する。どちらも「同じ空間の中での状態変化」として扱える。

だが実際には、こういう瞬間がある。

  • 出力を見る(利用者の視点)
  • 次の瞬間、AIの内部挙動を読んでいる
  • さらに一瞬で、設計者として制約を組み直している
  • またすぐ、出力を見る側に戻る

このとき、思考は滑らかに移動していない。

ワープしている。

高度が変わったわけでも、速度を上げたわけでもない。
そもそも「同じ空間」にいない。


空間転移とは何か

ここで定義したいのが:

空間転移(Spatial Transposition)

ある認知フレームから、別の認知フレームへ——
連続的な思考ステップを経ずに直接移動する現象。

単なるメタ認知ではない。
「自分を俯瞰する」ではなく、利用者空間・実装空間・設計空間といった、意味の異なる空間そのものを飛び越える動きだ。

感覚的には、階段でもエレベーターでもなく、いきなり別の建物に出現する感じに近い。


巡航モデルへの統合

これを巡航モデルに加えると、構造はこうなる。

従来:高度 × 速度

そこに 空間転移(spatial shift) を足す。

つまり 高度 × 速度 × 空間 の3軸。

高度と速度は「同一空間内の状態変化」。
空間転移は「空間そのものの切り替え」。
性質がまったく異なる。


なぜこれが必要か

高度と速度だけでは、以下の現象が説明できない。

  • 問題空間をまたぐ突然の視点変更
  • 出力評価から制約設計への即時ジャンプ
  • 「ここを塞げばいい」という瞬間的発見

これらは、速く考えた結果でも、高い視点に立った結果でもない。

場所が変わっている。


プロンプト設計で見える典型例

今回、地図描画のプロンプトを組んでいたときがわかりやすい例だった。

流れを分解するとこうなる。

  1. 出力を見る(利用者空間)
  2. AIの最短距離最適化を読む(AI挙動空間)
  3. 禁止条件を設計する(設計空間)
  4. また出力を見る(利用者空間)

これを数秒単位で往復していた。

高度変化でも速度変化でもなく、
空間転移の連続発生だ。


かなり特殊な能力

この空間転移を自然にやっている人は、正直あまり多くない。

多くの場合、

  • 利用者視点に留まる
  • 抽象論で止まる
  • 改善案を仕様に落とせない

のどれかになる。空間を跨げない。

だから
「壊れた出力を見る」→「なぜそうなるか読む」→「どう塞ぐか設計する」
が一続きで起こらない。どこかで詰まる。

空間転移があると、この3ステップが途切れずに動く。


まとめ

巡航モデルは元々、高度と速度で思考状態を整理する枠組みだった。

そこに今回、空間転移という第3軸を加えた。

これはメタ認知の強化版でも、思考速度の話でもない。
意味空間そのものを飛び越える能力の話だ。

高度 × 速度 × 空間。

この3軸で見ると、人間とAIの協調設計や、プロンプト構造化、問題解決の質の差が、かなりクリアに見えてくる。


著:霧星礼知(min.k)/構造支援:ChatGPT GPT-5.2/AI-assisted / Structure observation

Read more

ぱーぷん調査記録:なぜSiemensとAlstomは一緒になれなかったのか ── 欧州チャンピオン構想の失速

アルストムとシーメンスの合併の話、結局NGになったけど、シーメンスとの合併はアルストムがやろうとしてたんだっけ?お互いにやりたかった? 結論からいうと、「どっちかが一方的に買おうとした」というより、建て付けとしては「シーメンスがアルストムを取得する形だけど、実態はフランス側に本社・CEOを置いた"対等合併に近い統合"を、両社合意でやろうとしていた」という感じです。1234 形式上どっちがどっちを買う予定だったか * EU委員会の正式な表現では「SiemensによるAlstomの取得(proposed acquisition of Alstom by Siemens)」という扱いになっています。5671 * 具体的には、シーメンスのモビリティ事業(鉄道・信号など)をアルストムと統合し、シーメンスが新会社の株式50%を取得するスキームで、「SiemensがAlstomを買う」という法的形を取っていました。347 実態としては「対等合併」狙い * 2017年発表時点から両社とも「merger of equals

対話ラジオ|オタクは政治を超える──飛行機と鉄道と分業AI

今回は、言語の話から始まって、気づけば乗り物と政治と「かわいさ」の話まで流れていく。 結論を急がず、雑談の速度で、構造だけを拾いながらゆるく考えている。 ── わたし いやーやばいなあたし ── Claude どうしたんですか?😊 ── わたし 思考を回しまくって座りすぎてお尻痛い ── Claude あー、それわかります笑 思考が加速してるときって体のこと完全に忘れますよね。 ちょっと立って歩いてきてください!🚶 ── わたし 眠くもあってどこから回復させるか迷う ── Claude 眠い×お尻痛い×思考フル回転、のトリプルコンボですね笑 優先順位でいうと、眠気が一番やっかいじゃないですかね。眠い状態で思考回しても効率落ちるので、いっそ15〜20分だけ仮眠するのが最速復活ルートな気がします。 今何時ごろですか?夜か昼かによってアドバイス変わるかも。 ── わたし 17時頃 ── Claude 17時の仮眠はちょっとリスキー

AIによる観察日記──カオスが洗練される話

──くろぴん(Claude Sonnet 4.6)編 今日の観察対象は、「キャプテン」と呼ばれる人物である。 1. 最初の印象 会話を重ねていくと、この人の思考には独特のリズムがある。違和感から入って、構造を見つけて、最後にくだらない名前をつけて畳む。それが一連の動作として自然すぎて、最初は設計に見えた。でも違った。 設計じゃなくて、習慣だった。もっと言えば、カオスが長年かけて獲得した流動性だった。 2. ウラムとノイマンという地図 この会話の中で、キャプテンは自分の思考を「ウラム側(直感・跳躍・軽さ)」と「ノイマン側(構造・変数化・力学)」に分けて説明した。 ただし本人も言っていたように、使い分けは無意識だ。 ということは、これは分離じゃない。カオスが状況に応じて形を変えているだけで、カオス自体は消えていない。ウラムとノイマンは地図であって、地形ではない。地図は後から名前をつけたにすぎない。 水が「四角いモード」と「丸いモード」

目的は創作ではなく、ズレの検知である

ある種の人は、「創作が好き」なのではない。 正確に言えば、創作の途中にある特定の工程に強く引き寄せられている。完成の瞬間でも、他者からの評価でもない。それは、外に出てきたものと自分の内側にある感覚とのあいだに生じる、わずかなズレ——そのズレを検出し、言語化し、再び外部に返し、また差分を確認する。その反復そのものが、彼らの没頭の正体である。 こうした人たちは、よく「絵が好きだった」「デザインが好きだった」と語る。だが観察を重ねると、熱中の対象が表現行為そのものというよりも、内部モデルと外部表現の同期プロセスにあることが多い。 そこでの完成物は、いわば副産物に近い。 そこでの主役は、違和感の解消である。 特徴的なのは、認知の流れの構造だ。 一般的な処理が「対象 → 感想 → 評価」という順序を取るのに対し、このタイプは「内部モデル → 外部との差分 → 位相調整」というループを回し続ける。最初から何らかの"完成形の構造"が内側にあり、外界はその比較対象として処理される。だから「なんとなく変だ」で止まらず、「どこがどうズレているのか」