犬は、鉄道を知っていた── 三匹の旅と、それぞれの居場所について ──
Dogs Who Knew the Railway — Three Dogs and Their Places むかし、鉄道のそばで生きた犬たちがいた。 飼い主のいる犬ではなく、鉄道そのものを住処にした犬たちだ。駅の匂いを知り、汽笛の意味を知り、人間が「インフラ」と呼ぶものの隙間に、自分の場所をみつけた犬たち。 その三匹の話をしようと思う。 一匹目 ランポ――ダイヤを読んだ犬 1950年代のイタリア。トスカーナの小さな駅、カンピリア・マリッティマに、一匹の雑種犬が住みついた。名前はランポ。「稲妻」という意味だ。 ランポは最初、ただの野良犬だった。駅長の家族に半分だけ飼われて、半分は自分の足で生きていた。 でも、ランポには特別なことができた。 列車の時刻を、覚えていたのだ。 毎朝、子どもたちを乗せた通学列車が来る。ランポはその列車に乗り込み、子どもたちと一緒に学校のある町まで行く。そして午後、帰りの列車で自分の駅に戻ってくる。誰に教わったわけでもなく、時刻表を読んだわけでもなく、ただ何度もくり返すうちに、列車のリズムが体に入ったのだ。