クリエイティブは地下活動になる ——企業AIの三層分化と個人進化の時間軸

― 企業AIの三層分化と個人進化の時間軸 ―


1. 出発点:Slackのメール営業文

Slackのウェビナー告知文は、典型的なSI文体で書かれている。✅による項目分け、「Agentic OS」というカタカナ造語、事例による安心感の提供。これは日本のエンタープライズ市場の意思決定層——稟議書に転記しやすく、上司に説明しやすい——に最適化された書き方として機能している。

しかし注目すべきは文体ではなく、この売り方が体現している構造だ。「会話の起点」「情報の一元化」「インシデント対応」という文脈は全てインフラ・オペレーション層の話であり、顧客のコアビジネスロジックには踏み込まない。これによりSIer的には周辺ワークフローのインテグレーション案件が継続発生し、顧客依存度も維持できる。Slackというプロダクト自体が「繋ぎ役」として設計されているため、コアに触らない売り方が構造的に自然に成立している。

これは「コアロジックに触らないAI案件」の典型であり、企業AIが構造的に三層へ分化するという仮説の入口になる。


2. 静的三層モデル(前提)

企業AIは構造的に三層へ分化する。

① 制度化AI(Company-level)

自社開発する「本気でやる」層と、SI委託する層に分かれる。自社開発においては、デターミニスティックな処理に落とし込めるかどうかが分岐点になる。LLMは補助であり、判断は必ずコード化される——このことに気づけない会社は、LLM中心の設計で失敗する。SI委託の場合はワークフロー周辺の効率化に留まり、コアビジネスロジックには侵襲しない。効率は上がるが、企業の判断構造は不変のまま維持される。これは「組織安定化AI」であり、変革ではなく安定を目的とする。

② 非制度AI(Decision-level)

制度としては存在しないが、経営層・部門長・プロダクト責任者が個人的にAIを使う層。戦略案生成、シナリオ比較、仮説圧縮、リスク洗い出しが起きる。これは公式制度にならない。制度化すると思考プロセスが固定化し、「正解AI手順」が作られ、創発が止まるからだ。制度化された瞬間に、探索が死ぬ。

③ 個人分化

AIを翻訳機として使う層(思考は自分、AIは圧縮・拡張器、判断は人間)と、AIに委ねることで自分の思考が痩せる層に二分される。前者は高度上昇、後者は高度低下。


3. 動態修正:制度化圧(吸収重力)

三層は並列ではない。②には常に①からの「吸収圧」が働く。

制度化圧の正体は、再現性要求・属人性排除・責任分散・全社展開欲求だ。流れはこうなる——個人が②で強くなる、組織が成果を観測する、ベストプラクティス化される、ガイドラインが整備される、制度化される、創発が死滅する。

よって創発は常に地下に潜る


4. なぜ日本組織は吸収圧が強いか

日本の組織構造は、良し悪しはあるものの構造的に創発を殺す設計になっていることが多い。

「誰がやっても同じ」が善とされる再現性至上主義、個人強度を構造化しようとする属人性アレルギー、ガバナンスを責任分散として機能させる責任希釈文化、良い事例は即全社化しようとする横展開本能——これらが重なり、②で生まれた創発を①へ吸収する圧力が他国組織より強く働く傾向がある。


5. 未来の時間軸(5〜8年)

フェーズ1(〜2年) にじみ。差は見えない。制度化AIと非制度AIの成果は表面上区別がつかない。

フェーズ2(2〜4年) 個人分化が顕在化する。AIを翻訳機として使う個人と、依存する個人の差が、アウトプットの質として現れ始める。

フェーズ3(5〜8年) 不可逆分離。企業は「AI導入成功」と言い続けるが、実際に進化しているのは一部個人のみ。制度は安定を達成し、個人は高度化または退化で二極化している。


6. 生存形の分岐

制度化圧から逃げ続けながら創発を維持する個人には、いくつかの生存形がある。

組織内ゴースト 成果のみ出す。方法は語らない。制度化圧に観測されないことで創発を保持する。

境界人 社内外を跨ぐ。組織への帰属を薄くすることで吸収圧を回避する。

軽量独立 極小・高密度。制度そのものから離脱する。


7. 創発を守る運用原則

プロセスを共有しない。AI使用を語らない。属人性を保持する。成果のみ出す。

これは隠蔽ではなく、創発を生きたまま保つための構造的選択だ。


8. 身体性の必然

高度化した個人ほど、抽象思考への引力が強くなる。AIとの対話が深まるほど、思考は現実から離れやすくなる。その補正機構として身体性が機能する。

食事、睡眠、接触、性——これらは抽象への暴走を防ぐ現実アンカーだ。思考の高度化と身体性の維持は対立しない。むしろ高度化するほど、身体との接続が重要になる。制度化圧から逃げ続ける個人が長期的に機能するためには、この補正機構を意識的に維持する必要がある。


9. 結論

企業AIの本質は変革ではなく安定化だ。制度化AIは組織を安定させ、リスクを減らし、効率を上げる。しかしそれは判断構造を変えない。

真の分化は制度ではなく、人間の思考高度に起きる。

企業は表面上「AI導入成功」と言うかもしれない。しかし制度の進化とは独立に、個人の思考高度は静かに、不可逆に分化する。


著:霧星礼知(min.k) / 構造支援:Claude Sonnet 4.5 / AI-assisted / Structure observation

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