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なぜか気になってしまったことを、ただ調べてみる。結論が出るとは限らないし、途中で終わることもある。そのまま置いておくための自由研究ログ。 / Curiosity-driven inquiries

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Li Ziqi(李子柒)はどこで“個人では足りなくなった”のか——制作体制の変遷

Li Ziqi’s Production Shift — When a Solo Creator Becomes a System 李子柒は、いつから一人ではなくなったのか。 その境界は、映像ではなく制作体制の中に現れている。 最初は、三脚を立てて一人で撮るだけだった。 カメラも編集も、すべて自分でやる。 そこから少しずつ人が入り、やがて4人のチームになる。 映像の変化は、その拡張の結果として現れている。 この過程を、制作体制の変遷から追ってみる。 制作体制については、本人や周辺から一定の説明は出ている。 ただし、取材で制作現場そのものが公開された例は少なく、実際の運用は完全には可視化されていない。 そのため、ここで見ているのは「語られている体制」と「映像から推測される体制」を重ね合わせたものになる。 このズレ自体もまた、個人がIPとして扱われる過程で生じる特徴の一つとして読める。 〜2015年:完全ソロ期 体制:本人1名 美拍への投稿初期。スマートフォンと簡易機材を使い、企画・撮影・編集・アップロードまでをすべて一人で完結させていた[1]

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Li Ziqi(李子柒)という現象はどこで個人を越えたのか——そして個人に戻るまで

Li Ziqi as a Trajectory — From Individual to IP and Back 個人が、そのままの形で巨大化することはできるのか。 李子柒という事例は、その問いをかなり具体的に見せている。一人の生活から始まった映像は、やがて文化として語られ、商品として流通する。そのとき、名前は個人の外に広がり、別の速度で動き始める。そのズレが臨界に達したとき、活動は止まる。そして再開されたとき、そこには別の配置がある。この変化を、個人が一度拡張されて戻る過程として観察する。 李子柒(リー・ズーチー、本名:李佳佳)は、四川省の農村に住む一人の女性が、祖母と二人で暮らしながら撮り始めた動画から出発した。両親の離婚、父の死、祖父母のもとへの引き取り、14歳での中退と出稼ぎ。2012年ごろ、祖母の病を機に村へ戻り、農産物を売るタオバオの補助コンテンツとして動画を作り始めた——これが起点だ。[1][2] 出発点の構造はシンプルだ。売るために撮った。目的は商売で、動画は手段だった。 映像が&

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Li Ziqi(李子柒)はもう戻らないのか——完結した作品として見るためのメモ

Li Ziqi Did Not “Return” — A Completed Work Rather Than an Ongoing Channel Li Ziqiは本当に戻ってきたのだろうか。 それとも、私たちが「戻ってきたことにしている」だけなのか。 更新が止まっていた長い時間のあとに、数本の動画が現れた。確かにあの質感は残っている。だが、それを見ながら感じるのは安心ではなく、むしろ奇妙な距離感だ。あれは「続き」ではなく、別の場所に置かれた映像のように見える。 この感覚を言語化しておきたい。「復活した」という言葉が、なぜしっくりこないのか。その理由は、あの数年間がすでに完結しているからではないか、という仮説から始めてみる。 1. Li Ziqiは何を作っていたのか 李子柒(Li Ziqi)は、中国・四川省の農村に暮らす女性クリエイターだ。2016年頃からBilibiliとYouTubeに動画を投稿し始め、数年のうちに世界規模の視聴者を獲得した。 動画の内容はシンプルだ。山で食材や素材を採り、自宅で加工し、

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ピョンヤン散歩 ── Googleマップで平壌を歩くと何が見えるのか

A Walk Through Pyongyang on Google Maps — What Map Labels Reveal About a Closed City 平壌のGoogleマップには、なぜ店や施設のラベルがほとんど存在しないのか。 その分布を辿ると、「誰が動いたか」と「何を見せたいか」が重なった都市の構造が見えてくる。 平壌のGoogleマップは、首都とは思えないほど情報が少ない。 店のラベルがほとんどない。 レストランも、カフェも、コンビニも。 普通の都市なら当たり前に並ぶものが、ほとんど見えない。 都市なのに、情報が妙に静かだ。 それでもいくつかの場所には、ぽつぽつとラベルが刺さっている。 今日はそれを辿って、平壌を歩いてみる。 平壌ではGoogleマップよりOpenStreetMapの方が詳しい まず、Googleは世界最大の地図サービスである。普通の都市であれば、Google Mapは圧倒的に情報が多い。 が、平壌は違う。 少なくとも道路・建物の輪郭・一部の施設名については、GoogleよりOpenStreetMapの方

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銀鱗、鉛のように走る──国鉄鮮魚列車「ぎんりん・とびうお」が消えた理由

Why Japan’s Fresh Fish Trains Disappeared 魚は新鮮なほど価値がある。 それは今も昔も変わらない。 スーパーに並ぶ魚の産地を見れば、北海道から九州まで、日本中から集まっていることがわかる。今はトラックが運ぶ。冷蔵コンテナが高速道路を走り、翌朝には店頭に並ぶ。 だが、かつて日本では鮮魚だけを積んだ専用列車が、最高時速100kmで日本縦断を走っていた。 1 銀鱗、とびうお、そして最速の限界 その名は「ぎんりん」と「とびうお」。 どちらも速い生き物だ。そしてその名前の列車もまた、当時の貨物としては最速クラスだった[1]。旅客特急と並ぶ優先ダイヤが組まれ、途中駅での停車を最小限に抑え、全力で走った。 それでも、下関から東京市場まで1日以上かかった[2]。 「速かったのに、それでも遅かった」。この矛盾の中に、当時の物流構造がそのまま現れている。 2列車の役割は少しずつ異なる。「ぎんりん」は博多港から大阪市場を結んだ鮮魚列車であり、「とびうお」は幡生(下関付近)から東京市場を目指した[1:1]。九州各地の港から前段輸

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自由研究: 地下鉄で通勤するロシアの犬 — 都市は人間だけのシステムではない

Urban Research Note: Subway-Commuting Dogs in Moscow ロシアでは、地下鉄に乗って通勤する野良犬が報道や研究者の観察によって紹介されている。 そうした"通勤"パターンを示す個体も報告されており、郊外から地下鉄に乗り、都市中心部で食べ物を探し、夕方また戻る。 まるで会社員のような行動だ。 この現象は単なる面白い話ではない。 都市という人間のインフラを、動物が理解し利用している可能性を示している。 1|モスクワの「通勤する犬」 この現象が観察されているのはモスクワ地下鉄(Moscow Metro)だ。 推計で数万匹規模の野良犬がいるとされるモスクワで、そのごく一部が地下鉄を利用して移動する様子が報告されている。 典型的な行動パターンは次の通りだ。 郊外 ↓ 地下鉄に乗る ↓ 都市中心部 ↓ 食べ物を探す ↓ 夕方また戻る 人間の通勤と同じ構造を持つ移動パターンである。 2|この研究を続けている研究者 この現象を長年研究しているのが、A.N. Severtsov研究所の生態学者Andrey Poyarkovだ。

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ロシアはなぜロシアになるのか— 空間が国家構造を作る

Why Russia Becomes Russia — The Spatial Logic of State Formation ロシアはロシアである。 乱暴に聞こえるが、この言葉はロシアを理解するうえで意外と正確だったりする。 なぜならロシアの国家構造は、地理と空間によって強く決定されているからだ。 ロシアは「ヨーロッパになれない国」としてしばしば語られる。民主主義の定着しない国、法の支配が機能しない国、西欧化の試みが何度も挫折した国、として。 しかしこの見方は、問いが間違っている。ロシアがヨーロッパになれない、というよりも、最初から構造が違うのだ。 1|ヨーロッパ文明の前提 ヨーロッパ文明の基礎は都市にある。 地中海から北欧にかけて、ヨーロッパの歴史は都市の歴史でもある。商業都市が交易路でつながり、市民が生まれ、市民が制度を要求し、制度の集積が国家を形成した。国家は都市ネットワークの上に乗っかる形で発生した。 この順序が重要だ。 都市 ↓ 商業 ↓ 市民社会 ↓ 国家 都市が先にあり、国家が後から来る。だからヨーロッパの政治は本質的に「都市の論理」から発して

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資源が都市を作る——ロシア資源都市と企業インフラの構造

Resource Builds the City — The Structure of Russian Resource Towns and Corporate Infrastructure ロシアのダイヤモンド企業ALROSAは航空会社を持っている。 しかもその飛行機には、一般の乗客も乗ることができる。 企業が航空会社を持つ。 その時点で少し奇妙に見えるが、ロシアの資源都市の構造を見るとそれはむしろ自然な姿だった。 企業が都市インフラを持つ シベリアでは、都市は先に存在しない。 資源が見つかると、採掘のために人が集められる。人が集まると、生活のためのインフラが必要になる。しかしその土地には、何もない。道もなく、病院もなく、暖房設備さえ存在しない。 だから企業が作る。 住宅を建て、暖房を引き、道路を整備し、病院を運営する。その延長に、空港がある。航空会社がある。 これはソ連時代に確立された構造だ。工場や鉱山が都市そのものを産み出す「モノゴロド(単一産業都市)」と呼ばれるモデルで、企業が都市インフラの中心的な担い手として機能した。すべてを企業が一手に引き受けるわけでは

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貝から始まる文明──貨幣の素材がつくる世界観

Money Materials and Civilizations — From Shell Currency to Metal Coins 「貝」という部首は、漢字の中に頻繁に現れる。財、貴、貨、賛。これらはすべて価値に関係する言葉だ。この一致は、古代の貨幣制度が、文字そのものに刻みこまれているから起こる。 1|貝貨という出発点 古代中国では、貝殻が広い地域で価値ある交換手段として用いられた。特にタカラガイが重宝された。小さく、丈夫で、規格が揃いやすく、持ち運びも容易。準貨幣的な役割を果たすのに、自然物がそのまま向いていた。 その後、貝貨は変容していく。天然の貝から模造貝(青銅製)へ、そして刀銭・布銭といった独自の形状を経て、やがて円形の貨幣へと至る。中国の貨幣史は、貝を起点とする文明の物語でもある。 2|漢字に残る「貝の経済」 貝貨が消えた後も、その記憶は文字に生き続けた。「貝」を含む漢字の多くは、価値・

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自由研究: タイガ文明観察 — シベリアの「道路の外側の文明」

Civilization Without Roads — How Siberia’s Taiga Creates a Different Infrastructure Logic 人口200人の村にヘリコプターが物資を運んでいる。 採算だけ考えれば成立しないはずの交通が、実際には維持されている。 タイガを移動していると、シベリアの文明が「道路」ではなく別の原理で成立していることに気づく。 1|タイガの空間構造 タイガでは居住地はきわめてまばらだ。森の中に小さな村が点として現れ、また森に戻る。それだけだ。 都市に当たり前のように張り巡らされた道路ネットワークは、ここには存在しない。森が広がり、村があり、また森が広がる。この繰り返しが何百キロも続く。 2|航空が公共交通になる 村と町をつなぐのは航空だ。 Mi-8ヘリ、Antonov-26、IrAero(イルクーツク州)、Krasavia(クラスノヤルスク地方)、ChukotAVIAといった地方航空会社が、民間事業でありながら公共交通の役割を担う。人口数百人の村にも定期的に物資が運ばれる。採算の論理とは別の論理が、ここで

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都市は長く、川は短い──ロシア地名の年代構造

Why Russian Rivers Have Short Names? — The Age Structure Hidden in Place Names ロシアの都市名は長い。 ノボシビルスク、エカテリンブルク、ペトロパブロフスク・カムチャツキー。 ところが、主要な川の名前は短い。 レナ、オビ、ドン。 なぜだろうか。 1|ロシアの川は妙に名前が短い ロシアの地図を見ると、この非対称がいたるところに現れている。 都市名には長い語が並ぶ。ノボシビルスク(7音節)、エカテリンブルク(7音節)。一方でシベリアを流れる大河の名前は、レナ(2音節)、オビ(2音節)、アムール(3音節)、ドン(1音節)。これほどの大河が、これほど短い名前を持っている。 これは偶然ではない。この差には、地名の「年代」が刻まれている。 2|

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