これはAI創作ではない——SNSで見かけるようになった「創作の形をしたクリックベイト」について
This Is Not AI Fiction — It Is Clickbait in the Shape of a Story
著:霧星礼知(min.k)|mncc.info / Author: Reichi Kirihoshi (mncc.info)
はじめに
最近、SNSを見ていたら、縦読みの恋愛コンテンツの広告が流れてきた。
絵柄と文章の感じからして、生成AIを使って作られたもののように見えた。
読んでみたら、率直に言って、「とにかく気持ちが悪かった」。
AIの絵が不自然だとか、文章がAIっぽいとか、そういう話がしたいわけではない。
気持ち悪さの原因は、もっと手前の設計にあるように思えたのだ。
この記事では、その気持ち悪さを分解してみようと思う。
1. SNS広告で読んだ話
画面の下に外国語が残っていた
コンテンツの本文は日本語で表示されていた。ところが画面の下部に、韓国語で「계속 읽으려면 클릭👉」とある。「続きを読むにはクリック」という意味になる。
これは本文だけ日本語に差し替えて、ボタンの文言は元の言語のまま出てしまったのだろう。
海外で作られたコンテンツを翻訳し、複数の市場に広告として流している、という構造に見える。
スクリーンショット一枚では制作元や工程まではわからないが、少なくとも最初から日本語で作られたものではなさそうだ。
ストーリーの流れ
内容はだいたい次のとおり。
- ある男女が結婚している
- 男は元恋人への気持ちを引きずっている
- 妻は、夫が元恋人の名前を口にしながら自慰しているのを知ってしまう
- 妻は深く傷つく。しかも妊娠している
- 二人は別れる
- しばらくして、第三者から妻に「彼はあなたを必死で探している」と連絡が来る
作り手が狙っているのは、たぶん 「実は彼はこんなに彼女を愛していた」「すれ違っていただけだった」というロマンチックな逆転だと思う。
読みながら浮かんだこと
こちらの頭に浮かんだのは、次のような言葉だった。
いや、本人が言え。
そもそも話し合え。
その状態でなぜ結婚した。
妊娠しているのに、なぜそんなにあっさり別れる。
周りを巻き込む前に、当事者同士で話せ。
ロマンスに浸る余地がどこにもなかったのである。
2. 昔からあったフック
ウェブコミックの広告には、もともとこういう作りのものが多かった。
浮気、不倫、裏切り、嫉妬、復讐、妊娠、元恋人、すれ違い、執着、「実はずっと愛していた」。人間関係のなかでいちばん刺激の強い場面を切り取って広告にする。
作品を読んでもらうための入口としてのフックなら、どんな作品にもある。けれど広告に出てくるあの場面は、作品の入口というより、クリックを引き出すための部品に見えた。
私は昔からこれが苦手だった。今回読んだものは、その手法がAI時代に行き着いた先に見えた。
3. 合理的に動くと終わる物語
登場人物が「話し合わない」理由
このタイプの話では、登場人物が合理的な行動を一つでも取れば、即座に物語が終わってしまう。
夫が元恋人への気持ちに区切りをつけていれば、そもそも何も起きない。妻に知られた時点で二人が話し合えば、別れには至らないか、少なくとも別の形になる。夫が妻を探しているなら自分で連絡すればいいし、そうすれば第三者は要らない。
登場人物が自分の生活を普通に守ろうとしないからこそ、話が進むのである。
クリック導線として並べ直す
同じ流れを、読者に与える刺激の順番として並べ直してみる。
| 展開 | 読者に起きること |
|---|---|
| 元恋人への未練 | 強い感情刺激 |
| 妻に露呈 | ショック |
| 妊娠 | 事態が重くなる |
| 別離 | クリフハンガー |
| 「彼はあなたを必死で探している」 | 感情の逆転 |
| 「実は愛していた」 | 次をクリック |
人物の人生として読むと支離滅裂だが、数十秒ごとに次の刺激を投入する導線として見ると、よくできている。
4. 欠落と感情で「クリックさせる」
情報の欠落
このつくりには、既存の研究でかなり説明がつく部分がある。
心理学者のジョージ・ローウェンスタインは、人は自分が知っていることと知りたいことの間にギャップを感じると、それを埋めたくなるという好奇心のモデルを示した[1]。情報ギャップ理論と呼ばれるものだ。
既存のウェブメディアの見出しは、この欠落を意図的に作ってきた。ブロムとハンセンはデンマークのニュースサイト10サイトの見出し約10万件を分析し、「このあと何が起きたかというと」のように情報を先送りする表現が、クリックを誘う仕掛けとして使われていることを示した。こうした表現は、商業化・タブロイド化したメディアで目立つという[2]。スコットも、クリックベイトの見出しが具体的な情報をあえて伏せ、欠落を作ることで読者を引き込む仕組みをコーパスから分析している[3]。
「彼はあなたを必死で探している」は、まさにこの形をしている。なぜ探しているのか、今どうしているのか、何も書かれていない。答えは次のコマにあるわけである(ないかもしれない)。
感情的覚醒
欠落だけなら、ミステリーでも作れる。ここで、浮気や妊娠や元恋人ばかりが並ぶのには別の理由がある。
ペンネイトはアイトラッキングを使った実験で、クリックベイトの見出しが引き起こす感情的覚醒が、続きを読みたいという意図の予測因子になることを報告している[4]。驚き、怒り、嫉妬、同情。感情が強く揺さぶられるほど、次を押したくなる。
恋愛のトラブルは、この二つを同時に満たせる素材だ。誰でも経験や想像ができて、感情がすぐに動き、「このあとどうなるのか」という欠落も作りやすい。
5. これは「創作」なのか?
読み捨ての娯楽との違い
最初はただ「AI創作コンテンツが増えたな」と思った。しかし、読んでいるうちに、これを創作と呼んでいいのかがわからなくなった。
これまでは、どんなに軽い娯楽作品でも、作品そのものを楽しんでもらうことが、大なり小なり目的としてあったと思う。展開が雑でも、人物が薄くても、読み終えたときに何か残ればいいと作り手は考えている。
今回のものは、作品を完成させて楽しんでもらうという流れになっていない。刺激を与え、クリックさせ、次の刺激を与え、またクリックさせる。その繰り返しがあるだけだ。物語を読ませるためにフックがあるのではない。フックを連打させるために、物語らしきものが存在している。
「作者」の位置にいるもの
ここでは、この状態を仮に「感情のクリックベイト」と呼んでみたい。人物の感情を描くのではなく、読む人間の感情をクリックの資源として使うコンテンツのことだ。
普通の創作では、作者が人物を考え、その人物ならどうするかを考えて話を進める。感情のクリックベイトでは、その位置にマーケティングの工程が座っている。次に何を見せれば反応が上がるか、どこで離脱が起きるか。人物の行動はその答えに合わせて決まる。
読んでいて気持ちが悪かったのは、たぶんこのせいだ。人物に感情があるように見せながら、実際に扱われているのは読んでいるこちらの感情だった。
6. 生成AIと相性がいい理由
準備にかかるものが少ない
この形式では、普通の創作で大事になるものがほとんど要らない。作者性、人物造形、人物の一貫性、生活感、テーマ、長い伏線、心理の積み重ね、「この人ならこうする」という必然性。
必要なのは「次に何を出せば読者が反応するか」だけだ。よくある展開を組み合わせ、それらしい場面を次々に出すのは、生成AIが得意とするところに近い。
安く、大量に、試せる
生産の条件もそろっている。大量に作れる。安い。翻訳しやすく、多言語に展開できる。絵も生成できる。複数のパターンを作り分け、広告効果を比較することも容易になる。
広告制作に生成AIを使う研究はすでにある。カプールとクマールは、インドのEC企業と組んでWhatsApp上でフィールド実験を行い、購入履歴に合わせて生成AIで作った動画広告が、比較対象の広告よりクリックで測ったエンゲージメントを6〜9ポイント高めたと報告している[5]。恋愛コンテンツの研究ではないが、以前ならコストが見合わなかった規模の作り分けが、生成AIで現実的になっていることはわかる。
ウェブ全体でも似たことが起きている。NewsGuardは、AI生成の記事を大量に載せ、AI利用を開示しないまま運営されるサイトを「AIコンテンツファーム」として追跡しており、2026年6月の更新時点で16言語・3,749サイトを確認している[6]。
7. 越境するコンテンツ
日本語のこの種のコンテンツは、すでに珍しくない。ただ、日本の制作者がこぞってこの形式に移ったというより、海外の事業者が作ったものが翻訳されて入ってきているケースがあるように見える。今回の広告もおそらくそうだ。
外国作品の翻訳とは感触が違う。翻訳される作品には、元の言語で書いた誰かがいる。今回のものは、物語を商品のSKUのように作り、各国語にローカライズして広告を回しているようだった。コンテンツの越境ECに近い。
国を越えて運ばれているのは物語より、どの国の読者にも効く刺激の組み合わせのほうだ。
おわりに
AIで創作が劣化した、という話にはしたくない。今回の広告は、AI以前からあった形式の延長にある。
創作よりクリックを目的としたコンテンツ形式は前からあり、生成AIはそれと非常に相性がよかった。作者性や人物の必然性のように、クリック率に直接効かない部分はさらに削られ、刺激だけが速く、大量に、多言語で作られるようになった。
もともと創作である必要のなかったものが、AIによって、形だけ創作のまま安く量産できるようになった。
☕️よかったらコーヒー一杯。 https://buymeacoffee.com/mink_obs
著:霧星礼知(min.k) / リサーチ・構造支援:Claude Opus 5.5、ChatGPT / AI-assisted / Structure observation
For international readers
The author came across a vertical-scroll romance comic in a social media ad, likely produced with generative AI. The Japanese text was accompanied by a leftover Korean "click to continue" button, suggesting content produced abroad and localized for multiple markets. The story — a husband fixated on his ex, a pregnant wife who finds out, a breakup, and a third party reporting that "he is desperately looking for you" — collapses the moment any character acts reasonably. Read as a life, it makes no sense; read as a click funnel, it is efficient. Drawing on research into the curiosity gap, forward-referencing headlines, and emotional arousal in clickbait, the essay argues that this is less "AI fiction" than "emotional clickbait": a format where the reader's emotions, not the characters', are the material, and where a marketing process sits in the author's seat. Generative AI did not invent this format. It removed the remaining costs of authorship and made it cheap to mass-produce, test, and ship across languages.
Keywords
clickbait, generative AI, webcomic advertising, curiosity gap, information gap theory, emotional arousal, AI content farms, cross-border content, localization, authorship
クリックベイト、生成AI、ウェブコミック広告、縦読み漫画、情報ギャップ理論、感情的覚醒、AIコンテンツファーム、越境コンテンツ、作者性
George Loewenstein, "The Psychology of Curiosity: A Review and Reinterpretation," Psychological Bulletin, 116(1), 1994, pp.75–98. https://doi.org/10.1037/0033-2909.116.1.75 ↩︎
Jonas Nygaard Blom & Kenneth Reinecke Hansen, "Click bait: Forward-reference as lure in online news headlines," Journal of Pragmatics, 76, 2015, pp.87–100. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378216614002410 ↩︎
Kate Scott, "You won't believe what's in this paper! Clickbait, relevance and the curiosity gap," Journal of Pragmatics, 175, 2021, pp.53–66. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378216621000229 ↩︎
Supavich Fone Pengnate, "Shocking secret you won't believe! Emotional arousal in clickbait headlines: An eye-tracking analysis," Online Information Review, 43(7), 2019, pp.1136–1150. https://doi.org/10.1108/OIR-05-2018-0172 ↩︎
Anuj Kapoor & Madhav Kumar, "Frontiers: Generative AI and Personalized Video Advertisements," Marketing Science, 44(4), 2025, pp.733–747. https://doi.org/10.1287/mksc.2023.0494 ↩︎
NewsGuard, "Tracking AI-enabled Misinformation: 3,749 AI Content Farm sites (and Counting), Plus the Top False Claims Generated by Artificial Intelligence Tools," AI Tracking Center, last updated June 23, 2026. https://www.newsguardtech.com/special-reports/ai-tracking-center/ ↩︎