沖縄こどもの国 元園長・高田勝——在来家畜の保存を動物園経営へ持ち込んだ人

Masaru Takada — The Naturalist Farmer Who Brought Native Livestock Conservation into a Zoo

著:霧星礼知(min.k)|mncc.info / Author: Reichi Kirihoshi (mncc.info)

沖縄こどもの国 元園長の高田勝は、いわゆる「動物園畑をずっと歩いて園長になった人」ではない。むしろ、進化・家畜・在来種の研究者+農場経営者が、沖縄こどもの国の経営・展示に入ってきた人物である。かなり独特な経歴を持つ。

1. 動物園畑を歩いてきた人ではない

東京から沖縄へ

1960年東京都生まれ。東京農業大学を卒業後、財団法人進化生物学研究所に勤務し、1984年に沖縄へ移住した。本人の妻が沖縄出身だったことが移住のきっかけだったと紹介されている。その後、今帰仁村で農場を営み、沖縄在来豚「今帰仁アグー」の保存・繁殖に取り組んだ。現在も農業生産法人「有限会社今帰仁アグー」の代表を務めている。[1]

養豚家ではなく、育種と野生動物の研究者

ここが面白いところで、高田は単なる養豚家でもない。『料理通信』の紹介によると、もともと育種や野生動物を研究し、鶏についての知識を買われてアジア各地の調査にも同行していた人物である。今帰仁アグーについても、「ブランド豚を作る」というより、琉球弧に残った家畜を遺伝資源・文化資源として残すという発想がかなり強い。実際、今帰仁アグーだけでなく、口之島牛・在来鶏・在来ヤギなどにも関わっている。[2]

山階鳥類研究所の特任研究員として

さらに、山階鳥類研究所の特任研究員でもある。研究テーマは「地域固有文化と鳥類の多面的関係の研究」であり、現在も山階鳥類研究所の特任研究員として、所属は「(有)今帰仁アグー代表」と掲載されている。つまり畜産一辺倒ではなく、鳥類・野生生物・家畜・人間文化をまとめて扱うタイプの博物学寄り研究者と見たほうが実態に近い。[3][4]

2. 沖縄こどもの国への就任

そして沖縄こどもの国との関係である。沖縄市の2012年の広報では「去年の十月に沖縄こどもの国の施設長に就任した」と紹介されているため、2011年10月ごろに施設長へ就任したとみられる。[5] 一方、本人紹介などでは「2012年より施設長」と年単位で記載される場合もある。その後、専務理事兼施設長を経て園長となり、2019年まで務めた。園長就任時期については2015年または2016年とする紹介が混在しており、この一点は一次資料による追加確認が必要である。

3. 「沖縄にある動物園」ではなく「沖縄の動物園」

高田時代の沖縄こどもの国を理解するキーワードは、おそらく **「沖縄にある動物園」ではなく「沖縄の動物園」**である。

「沖縄の人自身が、沖縄を知る場所」にする

2016年のQABの取材で、高田は、こどもの国が単なる「遊びの場」になると施設としての軸が揺らぐという趣旨のことを語っている。そのうえで、リュウキュウイノシシ、与那国馬など琉球在来種の飼育や、沖縄の伝統文化を取り入れたイベントを進めていた。目標は、観光客向けにどこにでもいる大型動物を並べることではなく、沖縄の人自身が沖縄を知る場所にすることだったのである。[6]

動物を、生活と祭祀と環境ごと捉える

これは高田自身の専門と完全につながっている。彼は琉球弧を、在来動物・在来家畜が非常によく残った地域として捉えている。そして豚、馬、牛、ヤギ、鶏を単なる「品種」としてではなく、

動物 → 人間の生活 → 祭祀・食文化・労働 → 島の自然環境

というセットで捉えているのである。

そのため沖縄こどもの国でも、在来動物だけでなく、沖縄の在来植物の栽培展示まで推進していた。当時掲げていたモットーは「人をつくり、環境をつくり、沖縄の未来をつくる」である。[7]

4. 知識伝達ではなく、感性の窓を開ける

教育観もかなり面白い。高田は園の職員について、「教科書の知識を教える」ことより、子どもが「すごい」「なんだこれは」と感じる入口を作ることを重視している。つまり科学教育を、知識伝達ではなく、感性の窓を開ける仕事として捉えているのである。沖縄こどもの国がワンダーミュージアムを併設していることとも、非常に相性のよい思想である。[8]

5. 動物福祉とユニバーサルデザインを同じ地平で考える

もう一つ興味深いのが、動物福祉と人間のユニバーサルデザインをかなり同じ地平で考えている点である。2017年のインタビューでは、動物が虐げられない環境を作ることが動物園の基本であり、それは来園者についても同様だという趣旨を語っている。車椅子、ベビーカー、高齢者、外国人への対応や、沖縄特有の強い日射・路面反射まで、現場から改善案を出していたという。[9]

6. 退任後も変わらないテーマ

そして2019年に沖縄こどもの国を離れた後も、そのテーマはほとんど変わっていない。闘牛を「動物愛護か伝統文化か」という単純な対立で処理せず、獣医配置やルール整備、文化として存続させる意味を考える講演を行ったり、琉球競馬ンマハラシーのシンポジウムで「琉球弧の在来家畜」について講演したりしている。[10]

現在も今帰仁アグーの経営を続けており、2021年4月からは今帰仁村商工会会長にも就いていると沖縄県の観光情報サイトに紹介されている。[1:1] また、沖縄の自然・文化・在来家畜についての講演・教育活動も継続している。

7. 高田勝という人物をどう捉えるか

したがって、高田勝という人物を一言でまとめるならば、

「在来家畜の保存を軸に、進化生物学・農業・地域文化・動物園教育を横断している人物」

ということになるだろう。

高田は、飼育現場からキャリアを積み上げて園長になったタイプとはかなり異なる。自ら豚を数百頭飼育し、在来家畜の保存と研究を行っていた博物学者兼農家が、その思想をそのまま動物園経営に持ち込んだと考えると分かりやすい。

沖縄こどもの国が単なる総合動物園ではなく、「沖縄とは何か」を動物・植物・文化・人間生活を通じて提示する施設として強い個性を持つようになった背景を考えるうえで、高田勝は重要な人物である。

参考文献・資料

☕️よかったらコーヒー一杯。 https://buymeacoffee.com/mink_obs

著:霧星礼知(min.k) / リサーチ・構造支援:Claude Sonnet 4.6、ChatGPT / AI-assisted / Structure observation


For international readers

Masaru Takada, former director of Okinawa Children's Land (Okinawa Zoo & Museum), did not rise through the ranks of zookeeping. Born in Tokyo in 1960 and trained at Tokyo University of Agriculture, he worked at the Institute for Evolutionary Biology before moving to Okinawa in 1984, where he began farming in Nakijin and dedicated himself to preserving and breeding the Nakijin Agu, a native Okinawan pig. He is also a research fellow at the Yamashina Institute for Ornithology, studying the relationship between local culture and birdlife.

Takada brought this naturalist-farmer perspective directly into zoo management. Rather than displaying the large exotic animals tourists expect, he emphasized native species of the Ryukyu arc — Ryukyu wild boar, Yonaguni horses, native goats and chickens — along with native plants, treating livestock not as breeds but as parts of a chain running from animals to human life, ritual and food culture, and the island environment. He viewed science education as opening a window of wonder rather than transmitting textbook knowledge, and he considered animal welfare and universal design for visitors as a single continuous problem.

After leaving the zoo in 2019, he has continued the same work: lecturing on Okinawan bullfighting as a question of both welfare and cultural continuity, speaking on native livestock of the Ryukyu arc, and running his Agu operation while serving as head of the Nakijin Village Chamber of Commerce since April 2021.

Keywords

Masaru Takada, Okinawa Children's Land, Okinawa Zoo, native livestock, Nakijin Agu, Ryukyu arc, genetic resources, evolutionary biology, Yamashina Institute for Ornithology, zoo education, animal welfare, universal design, local culture, conservation

高田勝、沖縄こどもの国、沖縄市、今帰仁アグー、在来家畜、琉球弧、遺伝資源、進化生物学研究所、山階鳥類研究所、動物園教育、動物福祉、ユニバーサルデザイン、地域文化、在来種保存


  1. 沖縄観光コンベンションビューロー「今帰仁アグー・高田勝氏に関する紹介記事」『おきなわ物語』 https://www.okinawastory.jp/news/local/4213 ↩︎ ↩︎

  2. 料理通信「今帰仁アグー/高田勝氏に関する生産者紹介」『料理通信』 https://www.r-tsushin.com/people/producer/nakijinagu_takadamasaru/ ↩︎

  3. 公益財団法人山階鳥類研究所「フェロー・特任研究員・客員研究員紹介」 https://www.yamashina.or.jp/hp/gaiyo/staff/kyakuin_tokunin.html ↩︎

  4. 公益財団法人山階鳥類研究所『山階鳥類研究所 年報』。高田勝の研究課題「地域固有文化と鳥類の多面的関係の研究」を掲載。 https://www.yamashina.or.jp/hp/gaiyo/nempo/ ↩︎

  5. 沖縄市「今月の人 沖縄の在来種の保存に尽力 高田勝さん」『広報おきなわ』No.457、2012年7月号。 https://www.city.okinawa.okinawa.jp/kouhou/H24/07/0601.html ↩︎

  6. 琉球朝日放送(QAB)「高田勝・沖縄こどもの国に関する取材記事」、2016年。 https://www.qab.co.jp/news/2016050279609.html ↩︎

  7. 沖縄羅針盤「高田勝さん【沖縄こどもの国園長】」ラジオ/ポッドキャスト出演記録。 https://music.amazon.com/podcasts/7b50b5eb-329a-46b0-a67f-3fbb252b3872/episodes/6cb099fa-05ba-41e5-9768-8f210582d3bf/ ↩︎

  8. 塩ビ工業・環境協会(PVC)「沖縄こどもの国・高田勝氏に関するインタビュー/紹介記事」 https://www.pvc.or.jp/contents/news/80-2.html ↩︎

  9. ハートデザイン「沖縄こどもの国 高田勝園長インタビュー」、2017年。 https://heart-design.jp/report/20170831report2/ ↩︎

  10. 奄美新聞「闘牛文化・在来家畜等をめぐる高田勝氏の講演に関する記事」、2019年。 https://amamishimbun.co.jp/2019/05/04/17985/ ↩︎