LingOrmとは何か(2)——タイGLドラマの世界

What Is LingOrm? (2) — The World of Thai GL Dramas: From BL to GAP, and Pairs That Outlast the Show (LingOrm Feature, Chapter 1-2)

著:霧星礼知(min.k)|mncc.info / Author: Reichi Kirihoshi (mncc.info)


LingOrmの人気を理解するには、タイGLへの理解が欠かせない。ここでは、発展の歴史としてタイBLの話も交えつつ、解説を試みる。

1. BLが先にあった

タイでは、男性同士・女性同士の恋愛を描くドラマをまとめて「シリーズY(ซีรีส์วาย)」と呼ぶ[1]。「Y」は日本語の「やおい」と「百合」から来た呼び方である。男性同士がBL(Boys' Love)、女性同士がGL(Girls' Love)で、GLは日本の「百合」とほぼ同じ意味で使われ、「ยูริ(ユリ)」という言い方もある[2]。

先に産業として育ったのはBLだった。タイのBLドラマは2010年代半ばから大衆的な人気を得て、2024年半ばまでに200本を超える作品が作られている[3]。アジアから中南米までファンを持つジャンルで、俳優をカップル単位で売り出す手法もこのBLの中で磨かれ、後にGLにも引き継がれた[4]。

GLは、先に成功したBLの手法を参照しながら、その後から発展してきた[5]。2010年の映画『Yes or No(อยากรักก็รักเลย)』のように、女性同士の恋愛を正面から描いた作品が早くからなかったわけではない[6]。ただ、テレビシリーズでは、女性二人の関係は脇役として、あるいはBL作品の脇役カップルとして添えられる程度にとどまっていたという[7]。研究者のEva Cheuk-Yin LiとKa-Wei Pangは、2024年半ばまでにBLが200本を超えるほど作られてきた一方で、GLシリーズの登場がごく最近までずれ込んだこと自体に、商業的な関心の乏しさ、ひいては性的指向だけでなくジェンダーにもとづく不平等が表れていると指摘している[8]。

2. 2022年の『GAP』

流れが変わったのは2022年11月である。新興の制作会社Idol Factoryが制作した、小説を原作とするGLシリーズ『GAP(ทฤษฎีสีชมพู)』の放送が始まった。Channel 3で放送され、放送後にはIdol Factoryの公式YouTubeチャンネルでも配信された[9]。LiとPangが紹介する本人の発言によれば、プロデューサーでIdol Factoryの経営者のSuppapong Udomkaewkanjanaは、投資家が出資をためらったため、自ら資金を出したという[10]。主演のFreen Sarocha(フリーン・サロチャー)とBecky Armstrong(ベッキー・アームストロング)は、同社の前作であるBLシリーズで脇役のカップルを演じていた二人である[11]。

『GAP』はタイで初めての本格的なGLシリーズとされ、2024年8月には公式YouTubeでの累計再生回数が8億回を超えた[12]。その成功をきっかけに、GLの制作は増えていった。2023年に放送されたGLシリーズは2本。2024年8月までには、『GAP』を含めて全編放送を終えた作品が累計8本、ミニシリーズが2本になり、さらに数本が放送中だった[13]。

2024年には、大手も自社制作のGLに乗り出した。シリーズYで知られる大手制作会社GMMTVが初のGL作品『23.5』を、『GAP』を放送したChannel 3が自社で制作した初のGLシリーズ『The Secret of Us』を送り出している[14]。新興の制作会社が切り開いたジャンルに、テレビ局が自社の女優を主演に立てて入ってきた。Lingling Kwong(リンリン・クォン)とOrm Kornnaphat(オーム・コーンナパット)のペア、LingOrmが登場したのは、この時期である。

タイGLは、タイだけで生まれた文化でもない。LiとPangは、タイのGL産業には、日本の百合漫画、中国語圏の「百合(baihe)」サブカルチャー、K-POPの「シッピング」(ファンが二人の関係を想像して応援する文化)、英語圏のフェムスラッシュ(女性同士の関係を描くファンフィクション)やWLW(women loving women)コンテンツの影響が混ざり合っていると論じている[15]。日本の読者にとって「百合」という言葉が通じるのは偶然ではない。

観客層もBLとは違うものになっている。BLが主に異性愛者の女性に向けて作られ、消費されてきたのに対し、GLのファンは主にクィア女性だ、と二人は書いている[16]。LiとPangが分析した長編GL8作(2024年8月までに完結)は、いずれもハッピーエンドで、登場人物の関係を家族や友人が支えていた[17]。二人は別の寄稿で、悲劇的な結末が多かった欧米のLGBTQ+作品と比べて、タイのGLは喜びや前向きさを重視していると述べている[18]。

この時期には、作品の外の環境も動いていた。タイ政府は「シリーズY」を国のソフトパワーとして後押しするようになり、2024年9月には同性婚を認める婚姻平等法が官報で公布されたのである[19]。

3. 放送が終わっても「ペア」は続く

日本の連続ドラマなら、放送が終われば出演者はそれぞれ次の作品に移っていく。主演の二人がその後何年も組んで仕事を続けることは、あまりないだろう。

タイのシリーズYでは、ドラマで組んだ俳優ペアがそのまま一つの単位として活動を続けることが多い。タイ語ではこうしたペアを「คู่จิ้น(クージン)」と呼ぶ。「คู่(クー)」は「ペア」、「จิ้น(ジン)」は英語の「imagine」から来た言葉で、ファンが恋人同士として想像して楽しむペア、という意味になる[20]。

マヒドン大学の研究は、BL『KinnPorsche』とGL『GAP』の制作側などへの聞き取りから、シリーズYのマーケティングの柱の一つを「シリーズは終わってもクージンは終わらない」とまとめている。放送後もドラマの外でペアを見せ続け、ファンとの関係を長く保つという考え方だ[21]。ファンに特定のハッシュタグを広めてもらうなど、宣伝そのものにファンを参加させる手法もここに含まれる。

LingOrmは、この仕組みの典型例として研究されている。タマサート大学のRatchaneekorn Sae-Wang(ラッチャニーコーン・セーワン)は、『The Secret of Us』をめぐる「物語」がどう商品になっていったかを、SNS上の観察と内容分析から調べた。それによれば、LingOrmの物語づくりは三つの段階をたどった。放送前は、物語と二人の相性を重視する販売戦略のもとで物語づくりが進められ、ファンミーティングでその手応えが確かめられた。放送中は、初対面の思い出、役と本人の違い、人気カップルという立ち位置が繰り返し語られた。放送後は、ファンミーティング、広告、SNSのハッシュタグを通じて、カメラの外での二人の物語、たとえば「運命」や「赤い糸」が語られ続けた[22]。

前回の記事「LingOrmとは何か(1)——LingOrmという二人」で紹介した三つの共演作、ファンミーティング、二人そろっての広告出演は、この流れの上にある。ドラマは入口で、その後の活動の大半はドラマの外で積み重なっているわけである。

この仕組みには、批判的な見方もある。Sae-Wangは、女性が語り手となる物語づくりに意義を認めつつも、恋愛の定型だけで女性同士の関係を描き続ければ、レズビアンのアイデンティティや性の多様性が単なる商品に縮められかねないと注意を促している[23]。一方でLiとPangは、タイのGL産業はまだ発展途上であり、「クィアベイティング」(性的少数者の関係をほのめかして客を集めるだけの手法)や搾取だと本質的に決めつけるのは時期尚早だとしている[24]。

そして、タイGLと一口に言っても、制作会社ごとに事情は違う。新興の制作会社Idol Factory、俳優の発掘・育成から手がける大手のGMMTV、地上波テレビ局のChannel 3では、俳優との契約の仕方も、作品の流通経路も同じとは限らない[25]。LingOrmは、テレビ局の専属女優というかなり特殊な立場から、このジャンルの中心に入ってきたペアだと言える。

また、市場規模について一つだけ触れておく。タイの銀行系シンクタンクSCB EICは、BLとGLを合わせたシリーズY市場が2025年に49億バーツを超えると予測している。2019年にはタイの娯楽コンテンツ制作額の0.7%だったものが、3.9%まで伸びるという見立てである[26]。この数字はあくまで予測だが、ファンミーティングやコンサート、広告、観光にまで波及する産業として見られていることはわかる。

そして、この産業を国の外から支えているのが、海外のファンである。次の記事では、LingOrmの人気がどのように国境を越えたのかを見ていく。


参考文献

学術資料

産業・報道

作品・政府関連の報道(2026年10月31日追加)

補助資料(一次資料での確認待ち)

閲覧日:2026年10月21日。「2026年10月31日追加」と記した資料、本文を確認したG01・G02、書誌を再確認したB02は2026年10月31日閲覧。


脚注


  1. SCB EIC(Kirtiya Krongkaew)「ไขความลับซีรีส์วายไทย เหตุใดจึงติดเทรนด์โลก」2025年1月7日[B01]。同レポートはBLとGLを合わせて「ซีรีส์วาย」として扱っている。 ↩︎

  2. 「Y」の由来:Li & Pang(2025)[G01]の第2節「Not all queer media are the same」は、Saejang(2019)を引いて、タイのY産業はやおい(BL)と百合(GL)からなると説明している。Pang & Li(2026)[B02]も、シリーズYを日本語の「やおい」と「百合」を縮めた現地の呼び方と説明している。GLとYuriの用語:Thailand Foundation「Thai GL Series」。「ยูริ」の用例:Sae-Wang(2025)のタイ語題「ซีรีส์ยูริ」[G02]。 ↩︎

  3. Li & Pang(2025)[G01]。2010年代半ばからの人気:要旨。2024年半ばまでに200本超のBLが作られたこと:第2節「Not all queer media are the same」。 ↩︎

  4. Pang & Li(2026)[B02]。同論文は、シリーズYがアジアから中南米まで支持されていること、GMMTVなどの制作会社が俳優をペアとして育てて売り出す仕組みがBLで成功し、GLの俳優にも広がったことを述べている。Li & Pang(2025)[G01]第2節も、GL産業はBLのアイドル育成の仕組み(Baudinetteのいう「Boys Love Machine」)をゆるやかに取り入れており、主演俳優が恋人同士のようなイメージを育てる「リアルパーソン・シッピング」もBLとGLに共通すると述べている。 ↩︎

  5. Li & Pang(2025)[G01]第2節・第3節。二人は、GLを論じるときBLへの言及はほぼ避けられないが、GLがBLを基準にすべきだと主張するつもりはないと断ったうえで、GLはBLにならって試行錯誤しながらも独自の発展を模索していると論じている。論文の結論部も、GLはBLの成功モデルの上に立ちつつ、制作やクィア女性コミュニティとの関わり方で独自の道を切り開いているとまとめている。 ↩︎

  6. Thailand Foundation「Thai GL Series」。Sae-Wang(2025)[G02]も、2010年(仏暦2553年)の映画『Yes or No』を、女性同士の関係がタイ社会で広く知られるようになった転機として挙げている。 ↩︎

  7. BL作品の脇役カップル:Li & Pang(2025)[G01]第2節は、GMMなど一部の大手制作会社がBLシリーズのサブプロットとして女性同士のカップルを試していたが、『GAP』の成功まで長編GLシリーズは作られなかったと述べている。脇役・ミニシリーズについて:Sae-Wang(2025)[G02]の序論は、先行研究を引きながら、『Yes or No』以降のテレビでは女性同士の関係がまず脇役として描かれ(例:『ฮอร์โมนวัยว้าวุ่น』2014年)、その後はミニシリーズ(『Club Friday the Series』)で主役になったものの、結ばれない結末や社会からの排除で終わることが多かったと述べている。BL作品の脇役カップルの具体例は、脚注8の『Secret Crush on You』も参照。 ↩︎

  8. Li & Pang(2025)[G01]第2節「Not all queer media are the same: the imbalanced Y industry」。二人は、2024年半ばまでに200本を超えるBLが作られたにもかかわらず、最初のGLシリーズが現れたのはごく最近だったとし、この商業的関心の乏しさは性的な不平等だけでなくジェンダーの不平等も反映していると論じている。また、女性同士の関係を描くクィア・メディアは主にクィア女性に消費され、BLは主に異性愛の女性に向けて作られ消費されているという先行研究を、その背景として挙げている。 ↩︎

  9. 放送開始日(2022年11月19日、毎週土曜夜、Channel 3)と、放送後にIdol Factory公式YouTubeチャンネル(IDOLFACTORY OFFICIAL)で配信されたこと:แนวหน้า(Naewna)2022年11月21日。2022年11月にChannel 3で初放送され、YouTubeでは多言語字幕付きのノーカット版も公開されたこと:Li & Pang(2025)[G01]第2節。Idol Factory制作であること、原作がเจ้าปลาน้อย(Chao Planoy)の小説『GAP : ทฤษฎีสีชมพู』であること、11月19日にChannel 3で第1話が放送されたこと:THE STANDARD(第1話レビュー記事)。原作者についてはLi & Pang(2025)[G01]第3節も、『GAP』はChao Planoyの小説の映像化だとしている。放送期間(2022年11月19日〜2023年2月11日、全12話):กรุงเทพธุรกิจ(Chokcharatsakul 2024)。Idol Factoryの設立(2020年)も同記事による。台湾の換日線 Crossingも、Idol Factory制作・Channel 3放送としている。Idol Factory・Channel 3の公式発表そのものは未確認。 ↩︎

  10. Li & Pang(2025)[G01]第2節。同論文によれば、Suppapongは2023年にシーナカリンウィロート大学で開かれたイベントで、BL市場は伸びているのに投資家はGLの商業的な見通しが不確かだとして出資をためらった、と話した。二人はこの発言の出典として、X(旧Twitter)の投稿(2023年9月29日)を挙げている。そのうえで、最終的に本人が資金を出したことに、想定される視聴者をめぐるジェンダーの不平等が表れているとしている。本人はタイ紙の取材でも、自己資金で制作したと語っている(กรุงเทพธุรกิจ、Chokcharatsakul 2024)。制作費の総額や本人負担の割合は確認していない。 ↩︎

  11. BL作品は『Secret Crush on You(แอบหลงรักเดอะซีรีส์)』(2022年2月放送開始)。Idol Factoryの第1作であることと、『GAP』がその次の作品であること:Frank Hecker「Thailand closes the yuri gap」(2022年12月2日)。『GAP』が『แอบหลงรักเดอะซีรีส์』と同じ制作者の作品であること:ไทยรัฐ。二人が同作で脇役として共演していたこと:Tagg Magazine、メキシコのSopitas。Idol Factory公式の配役情報は未確認。 ↩︎

  12. 成功の規模について、Li & Pang(2025)[G01]第2節は、『GAP』が国際的に大きな成功を収め、2024年8月時点で公式YouTubeチャンネルでの再生回数が累計8億回を超えていたと記している。非公式チャンネルや海賊版での再生は含まず、単一動画の再生回数でもない。現在の再生回数とは異なり、時点によって数値も変わる(Sae-Wang〔2025〕[G02]は、Bangkok Biz Newsの記事を引いてYouTubeでの見逃し視聴を7億回超としている)。 ↩︎

  13. Li & Pang(2025)[G01]の要旨および第3節「Girls love: building upon BL while forging its own path」。2023年の2本は『Show Me Love』と『Love Senior』。2024年8月までに全編放送を終えた長編は『GAP』を含めて計8本で、要旨によればほかにミニシリーズ2本、放送中の作品が数本あり、第3節によれば制作中の作品は10本を超えていた。作品数の数え方は資料によって異なり、Sae-Wang(2025)[G02]は2023年のユリ作品の制作数を4本としている。 ↩︎

  14. 『23.5』:GMMTV初のGLシリーズであること、放送期間(2024年3月8日〜5月24日、GMM25・GMMTV公式YouTubeほか)は、Okazu(Frank Hecker、2024年6月5日)、ComingSoon.netなどの報道で確認。同作は2022年11月にGMMTVの2023年ラインナップとして発表されていたため、『GAP』の人気を受けて企画されたとは言い切れず、本文では「人気を受けて」を外した。GMMTV公式による「初のGL」という表現は未確認。『The Secret of Us』:Channel 3が制作した初のGL(ユリ)シリーズであること:Sae-Wang(2025)[G02]、กรุงเทพธุรกิจ(2024年4月4日)、換日線 Crossing(「首部自製GL作品」)。放送期間(2024年6月24日〜8月12日、毎週月曜、全8話、Channel 3・3Plusほか):Sae-Wang(2025)[G02]本文。初回日はไทยรัฐの告知記事でも確認。『GAP』もChannel 3で放送されているため(脚注7)、本文では「Channel 3初のGL」ではなく「自社で制作した初の」とした。GMMTVがシリーズYで知られる制作会社であること:Pang & Li(2026)[B02]。 ↩︎

  15. Li & Pang(2025)[G01]の序論。原文は、GLはタイで生まれたものではないとしたうえで、タイのGL産業には日本の百合漫画、中国語圏の百合(baihe)サブカルチャー、K-POPのシッピング文化、英語圏のフェムスラッシュとWLWコンテンツの影響が混ざり合っていると述べている。 ↩︎

  16. Li & Pang(2025)[G01]。GLのファン層が主にクィア女性からなること:要旨。BLが主に異性愛の女性に向けて作られ、消費されていること:第2節。第3節では、主にストレート女性を対象とするBLと違い、GLにはクィア女性のファンが多いとし、Tha-In(2023、シルパコーン大学修士論文)を根拠に挙げている。マヒドン大学の研究[G03]も、GLの観客の大半がLGBTQ+だと報告している。ただし同研究は4人への聞き取りに基づくもので、示された割合を観客全体の統計として扱うことはできない。 ↩︎

  17. Li & Pang(2025)[G01]第3節。対象は2024年8月までに放送を終えた長編GL8作(同論文の表1)で、タイGL作品全体についての主張ではない。二人によれば、8作はいずれも死者の出ないハッピーエンドで、登場人物の同性間の関係が家族や友人から強く支えられる様子を描いており、ファンもハッピーエンドか開かれた結末を期待するのが一般的だという。最終回の結婚式の例として、『GAP』と『The Secret of Us』が挙げられている。 ↩︎

  18. Eva Cheuk-Yin Li & Ka-Wei Pang「How Thailand's TV lesbian romances captured a global audience」The Conversation、2025年2月(ランカスター大学の業績一覧では2025年2月17日)。同記事は、タイGLが喜びと回復力を強調しており、欧米のLGBTQ+作品にしばしば見られる悲劇的な結末とは異なると述べている。転載(News Is Outほか)で該当箇所を確認したが、The Conversationの原記事ページは開いていない。なお、欧米作品との比較はLi & Pang(2025)[G01]の論文本文にはない。 ↩︎

  19. 政府の後押し:Pang & Li(2026)[B02]。Li & Pang(2025)[G01]の結論部も、2024年初めに商務省がシリーズYの制作会社と合意を結び、その対象に時代劇GL『ปิ่นภักดิ์(The Loyal Pin)』が含まれていることを、政府がGLの重要性を認めた例として挙げている。具体的には、2024年2月28日に商務省とIdol Factoryが「GLシリーズを通じたタイ製品・サービスの海外展開」に関する意向覚書(MOI)を締結した(タイ政府広報局、Khaosod English)。2024年3月20日には、プームタム副首相兼商務相が、Be On Cloud(BL『Shine』)とIdol Factory(GL『ปิ่นภักดิ์』)の経営陣・俳優とともにセター首相を訪問した(THE STANDARD)。婚姻平等法(民商法典改正法〈第24号〉仏暦2567年):2024年9月24日に官報掲載(PostToday、THE STANDARD)、施行は2025年1月23日(内務省報道官の発表、ไทยรัฐ)。公布後、施行日を1月22日とみる解釈もあったが、内務省は23日として運用した(THE STANDARD 2024年11月22日)。本文では、政府の後押しや法改正と、GL産業の発展や作品の作風との因果関係は扱っていない。Li & Pang(2025)も、政府との協力や婚姻平等の進展がクィア・メディアの商業化に与える影響は、今後の研究課題だとしている。 ↩︎

  20. 語源:Pang & Li(2026)[B02]は、「คู่」を「ペア・カップル」、「จิ้น」を英語の「imagined」をタイ語に写した略語と説明している。Sae-Wang(2025)も本文の注で、คู่จิ้นは「imagine」に由来し、ファンが俳優や芸能人を恋人同士として想像する呼び方で、実際に交際しているとは限らないと説明している。英文要旨では「koojin(fan-imagined romantic pairing)」[G02]。 ↩︎

  21. ฐิติมา อโณทัยวลัยกุล・วินัย วงศ์สุรวัฒน์「ถอดรหัสความสำเร็จกลยุทธ์การสื่อสารการตลาดของซีรีส์วาย BL (Boy's Love) และ GL (Girl's Love)」マヒドン大学経営学部、2024年(仏暦2567年)、テーマ別論文[G03]。タイ語要旨を筆者が要約・翻訳。対象作品はBL『KinnPorsche The Series』とGL『GAP The Series』。聞き取り対象は、両作品の制作側、政府の担当部門、タイY Content振興協会の3グループ計4人。2026年10月31日の再確認では同論文のページに到達できず、記述は2026年10月21日閲覧時のもの。 ↩︎

  22. Ratchaneekorn Sae-Wang「A Study of Storytelling in Yuri Series as a Process of Commodification: A Case Study of 'The Secret of Us'」Journal of Arts and Thai Studies, 47(3), E5583, 2025年12月30日[G02]。英文要旨とタイ語本文を筆者が要約・翻訳。方法はネトノグラフィー(オンライン上の参与観察)と内容分析で、2023年12月15日〜2025年7月17日の制作者・監督・出演者・オームの母のメディア上の発言、TikTok上の投稿、関連ハッシュタグを対象としている。放送前の物語づくりについて、同論文はChannel 3幹部のピンカモン・マーリーノン(ปิ่นกมล มาลีนนท์)による販売戦略として計画されたものと記述しているが、その根拠は公開インタビューなどで、社内資料による裏付けではない。放送前のファンミーティングは、2024年5月19日の「Happy LingOrm Day」と、放送前日の6月23日の「LINGORM 1st Meet」。また同論文は、「運命」「赤い糸」の物語を主にファンが持ち出し、広めたものとして記述している。 ↩︎

  23. 同上[G02]、結論部分。同論文は一方で、女性による語り、女性による「普通のこと」としての提示、姉妹的なロマンスという三つの仕組みを挙げ、女性が自らの物語を語る力を示すものとしても評価している。制作体制について、Li & Pang(2025)[G01]第3節は、2024年8月までのGLシリーズの多くは男性が監督・製作しているが、『23.5』と『The Secret of Us』はクィア女性が監督を務め、脚本は主に女性が書いていると述べている。 ↩︎

  24. Li & Pang(2025)[G01]結論部。原文は「タイのGL産業はまだ発展途上であり、本質的にクィアベイティングや搾取だとみなすのは時期尚早」という趣旨。第3節では、GLもクィアベイティングだと批判される危険はあるとしつつ、クィア女性に支持されていることが、制作側の表現や制作現場の倫理への意識を高めうるという可能性も示している。 ↩︎

  25. GMMTVが俳優を発掘・育成してペアとして売り出す点:Pang & Li(2026)[B02]がBaudinette(2023)を引いて記述。同論文は、すべての制作会社がGMMTVの方式をとっているわけではないとも書いている。LingとOrmがともにChannel 3と契約した俳優である点:Sae-Wang(2025)[G02]。制作会社ごとの契約形態や流通経路の違いを示す業界資料は見つかっておらず、本文の該当箇所は筆者の推測である。[要出典:業界資料] ↩︎

  26. SCB EIC(前掲)[B01]。2025年の数値は2025年1月時点の予測値で、実績値ではない。ThaiPublica(2025年1月)の報道でも、2019年0.7%→2025年3.9%(年平均約17%成長)、市場規模4,900百万バーツ超という数値を確認した。 ↩︎