「人が詰まらないオペレーション」をつくる——眼鏡店RIM by JINSと皮膚科で見た「同じ設計」

Operations That Don't Clog — What an Eyewear Store and a Dermatology Clinic Have in Common

著:霧星礼知(min.k)|mncc.info / Author: Reichi Kirihoshi (mncc.info)

1. 「担当者」はいない

最近、皮膚科とRIM by JINSへ行った。RIMはJINSの姉妹ブランドで、測定や加工といった店舗サービスはJINSのものをそのまま使える。

医療機関と眼鏡店だから、業種としては関係がない。それでも、両方から出てきたあとに似た感触が残った。

それは「担当者」の不在である。

受付をする人、案内する人、専門的な判断をする人、会計をする人がそれぞれ別に現れ、こちらのほうが工程の中を移動していく。一人のスタッフが最初から最後まで自分を抱えることはない。それでいて、たらい回しにされた感じはしない。所要時間も短い。

この二つで見たものは、たぶん同じ種類の設計だったのだと思う。

2. ケース1:皮膚科のオペレーション

短い診察の中身

今回行った医院に限った話として書く。

印象に残ったのは診察時間の短さそのものではなく、医師にしかできない仕事とそうでない仕事がはっきり分かれていたことだった。受付、問診、案内、待機、診察、説明、処置、会計がそれぞれ工程になっていて、別の人間が処理する。医師のところに来るのは、診断と治療方針と処方だけである。

業務フロー図1

この分け方はその医院の発明ではない。厚生労働省は医師の働き方改革の中でタスク・シフト/シェアを進めており[1]、委託事業の資料には、医療事務、予約、患者の移送、バイタル取得、医療記録の入力、患者への説明といった業務が、医師以外へ移せる例として並んでいる[2]。診療を医師個人の仕事としてではなく工程として分解する発想は、制度の側にある。

その結果、医師の処理能力がそのままクリニックの処理能力になりにくい。

「接点」が減っているわけではない

医師と話した時間は短い。その日いちばん多く話したのは看護師と受付だった。呼び出し、次に何が起きるかの説明、処置の手順。細かく声がかかるので、待っている時間も宙に浮かない。医師から削った接点を、他の人が引き受けているのである。

これについても参考になる研究がある。プライマリケアでリーンによるワークフロー再設計を行った研究で、46部門・317の医師主導チームを対象にしたもので、待ち時間の評価だけでなく、スタッフが役に立ったか、医師が話を聞いてくれたかという患者側の評価も改善している[3]。工程を分けることと、雑に扱われることは、必ずしも一緒に来ないのである。

3. ケース2:RIMのオペレーション

顧客が「工程」に属している

JINSは店舗での購入手順を、受付、測定、会計、加工、お渡しという工程として公開している[4]。フレーム選びと視力測定は独立した工程として扱われ、混み合っているときは受付順に測定へ入る[5]。

店内で起きていたのは、ほぼこの通りのことだった。

業務フロー図2

フレームを見ている間は、スタッフは声をかけてくることもあるが、基本的に誰も付かない。受付を通したあとは、自分がどの工程にいるかによって、相手をするスタッフが替わる。

管理されている単位が、誰がこの客を担当しているかではなく、この客が今どの工程にいるか、になっている。JINS自身も、即日お渡しを店舗オペレーションの効率化によるものとして説明している[6]。

2019年の「実験店」

これはRIMになって始まったことではない。2019年に開いたJINS BRAIN Lab.は、店舗をメガネ選びと度数測定に絞り、決済はアプリ、加工は自社倉庫、受取は配送という構成の実験店だった[7]。店舗という場所に何を残し、何を外へ出すか。工程の切り方そのものを試している。

4. RIMのキャンペーンで見えた「流入制御」

ここまではRIMの通常営業の話である。負荷が急に増えたとき、同じ設計がどう動くかを見たのが、キャンペーン中のオペレーションだった。

MUST BUY CAMPAIGNは、RIMとMISAMOのコラボレーション企画である。MISAMOはTWICEの日本人メンバー、MINA、SANA、MOMOによる3人組ユニットで、キャンペーンでは3人が着用するコラボレーションアイウエアが販売された。

人気アーティストとの限定企画だから、発売時には通常営業とは違う規模の来店集中が想定されるものであった。そのぶん、普段どう客を流しているかだけでなく、需要が一気に膨らんだときにどう流量を制御するかまでが表に出たのである。

業務フロー図3

まず、来店の分散は、店の外から始まっている。外部のWebサービスで希望時間帯を事前に登録し、発行されたQRの整理券を指定時間に店頭で提示する。当日は商品の選択と購入までを済ませる。レンズ交換と加工は後日で、当日渡されるのはフレームとレンズ交換券である。混雑緩和のためだと公式に書かれている。RIMLESSの加工には約10日かかる[8]。

この整理券は商品の「予約券」としては使われず「購入フローへ入る許可」となっているため、枠を取った人は、整理券が指定した日にフレームを指定し、決済まで進む。このため、在庫が長時間ロックされない。そのうえで、時間のかかる測定と加工は当日の店内から外してあるのである。

このように、流入は店舗に着く前から絞られており、短時間で終わる処理を先に確定させ、重い処理は後段へ回してるのである。

5. 皮膚科とRIMに共通しているもの

皮膚科は、患者を受付と情報取得に通し、診察できる状態にしてから医師を短時間投入し、説明や処置や会計を別のスタッフへ渡す。

RIMは、客に商品を選ばせて受付を通し、測定は機械へ渡し、その結果からどんなメガネを作るかを決める場面で人間の接客を投入し、加工と受取を後段へ送る。

専門家を客に張り付けるのではなく、専門家のところへ、処理できる状態になった仕事を流す。

接客の質は担当者が長く付き添うほど上がり、医療の質は医師が長く話すほど上がる。どちらの直感とも違うところで体験が作られている。人と接触した総量ではなく、必要な場面に必要な人が現れるかどうかで決まっている。

6. たまたま似たのかどうか

眼鏡店が抱えている工程

眼鏡店は、棚から取って会計すれば終わる小売ではない。度数の測定、レンズの決定、フィッティング、加工、受取という工程がある。中でも測定は、店舗の中に検査の性質を持つ作業を作る。

ただしJINSは境界を引いている。店舗の測定は眼科で行う視力検査とは異なり、メガネを作るために必要な度数を確認するものだと明記している[9]。診断はしない。眼病が疑われる場合や初めて作る場合は眼科へ回す。システム屋の語彙でいえばエスカレーションである。

眼科外来でも同じことをやっている

境界の向こう側では、同じ設計が研究対象になっている。眼科外来にリーンシックスシグマを適用した研究では、患者の動きをプロセスフローマップに起こしてボトルネックを特定し、人も設備も増やさずに滞在時間と処理能力を改善している[10]。外来医療全体のレビューでも、22研究中19研究で滞在時間が、26研究中24研究で医療者に会うまでの待ち時間が短縮したと報告されている[11]。

参照なのか収斂なのか

では、JINSやRIMのオペレーションは臨床の患者フロー設計を参照しているのか。調べた限り、そう言える一次情報は見つからなかった。アパレル小売の店舗改善思想との人的なつながりも確認できていない。

似ていることと、そこから持ってきたことは別である。証拠がないなら、もう一つの説明を残しておいたほうがいい。眼鏡店と眼科は隣接した工程を持ち、限られた専門人材と専門設備を抱え、来客の集中を受ける。制約条件が近い場所で別々に最適化すれば、似た形に行き着く。

たぶんこちらの説明のほうが、射程は広い。

7. ITの立ち位置

効きはじめる順序

この話を「RIMはDXが進んでいる」で終わらせると、順序が逆になる。

整理券も番号管理も測定機器もアプリも、ITである。ただ、担当者を一人張り付ける前提のまま同じ道具を入れたら、詰まる場所は変わらない。

仕事をどこで切るか。どこを同期処理にして、どこを後回しにできるか。何がボトルネックで、専門家をいつ投入するか。それを決めたあとで、ITが効きはじめるのである。

自動化する「対象」

自動化できることと、自動化すべきことは同じではない。

測定値を取るのは機械の得意分野である。その先にも機械は入ってきている。JINSは2026年3月から、納期の希望や、レンズの厚み、くもり、紫外線といった困りごとへの回答をもとにレンズを提案する「レンズ診断」を銀座店で本格導入した。生成AIが候補を絞り、なぜそのレンズなのかという根拠まで出す[12]。数値の意味づけも、ある程度までは自動化できる。

だがJINSは聞き取りのほうを手放していない。遠近両用レンズについては、年齢や日々の暮らし方や目的をスタッフが聞いたうえで設計を提案すると説明している[13]。使うシーンによって勧めるものは変わり、レンズとフレームの組み合わせにも制約がある[14]。度数が出たら商品が一つに決まるわけではない。JINS自身、レンズ診断を、スタッフへ相談する前のセルフチェックであり、自分のニーズを整理するための道具だと位置づけている[12:1]。

効率だけを目的にすれば、もっと先まで自動化に渡したくなる。推薦も自動、会計もセルフ、店員はゼロ。それで処理量は上がるだろう。だが、接客が作っていた価値も一緒に消える。RIMでやっているのは、人間を減らすための自動化ではなく、人間を、人間にしか価値の出せない場所へ戻すための自動化なのだろうと思う。

この点において、皮膚科も同じところに立っている。受付と記録と定型的な情報取得を効率化した先で、医師まで高速処理装置として使い切ってしまえば、診察は速くなっても患者の体験は壊れる。浮かせた時間を、判断と説明と選択の支援に寄せられるかどうかで結果が変わる。

おそらく、自動化できる範囲はこれからも広がるだろう。だからこそ、判断の基準は、機械にできるかどうかではなく、その接点を機械へ渡したときに何が消えるか、のほうになる。未来予測のようであるが、ホテルのカスタマージャーニーを扱った研究では、人の介在が効く度合いは接点ごとに違うと報告されている[15]。業種が違うので補助的な話でしかないが、人間による対面をどこも一律に減らすのは雑だ、という話として参考にはなるだろう。

そう考えると、希少なリソースは、資格や技術だけではない。相手の事情を聞けること、条件から選択肢を絞れること、その場で判断できること。これも同じくらい足りない。全部自動化すれば最適になるという前提のままでは、このオペレーションをする発想には行き着かないのである。

8. 「頑張っている一人」がいない方がいい

皮膚科でもRIMでも、「ものすごく頑張っている一人」は見当たらなかった。優秀な店員が全部を捌く、優秀な医師が大量の患者を捌く、という光景ではなかった。人が次の工程へ流れ、その場所に必要な能力を持つ人が現れるのである

ボトルネックを見つける。責務を分ける。流入量を制御する。重い処理を後段へ逃がす。希少なリソースを必要な処理だけに使う。

これらは書き出してみると、システム屋が普段やっていることとほとんど変わらない。
違うのは、流れているのがデータではなく人間だということだけである。


☕️よかったらコーヒー一杯。 https://buymeacoffee.com/mink_obs

著:霧星礼知(min.k) / リサーチ・構造支援:Claude Sonnet 4.6、ChatGPT / AI-assisted / Structure observation


For international readers

Visiting a dermatology clinic and an eyewear store (RIM, a sister brand of the Japanese chain JINS) in the same period, the author noticed the same operational pattern in both: no single staff member is assigned to a customer or patient from start to finish. Instead, people move through separated stages, and the scarce human expertise — the physician in the clinic, and staff supporting lens selection in the eyewear store — is brought in only at the moment it is needed. JINS publishes its store flow as discrete stages, ran an unbundled concept store in 2019 (selection and measurement in-store, payment by app, lens processing at a warehouse), and during a high-demand campaign pushed the heavy processing steps to a later date to control peak load. Japan's Ministry of Health promotes the same logic in clinical settings through task shifting, and lean patient-flow redesign is an active research field in outpatient care, including ophthalmology. No primary source shows that the eyewear operation borrowed from clinical practice; the more defensible reading is convergence under similar constraints — scarce expertise, dedicated equipment, and clustered arrivals. The point is not digitalization: IT starts to work only after the work itself has been cut apart and rearranged. Nor is it a case against automation. JINS now runs an AI lens-recommendation service that infers a suitable lens from a customer's use cases and concerns, while still positioning it as a self-check before talking to staff. As the automatable range widens, the useful question stops being whether a machine can do it and becomes what disappears when that particular point of contact is handed over.

Keywords

operations design, process separation, bottleneck management, task shifting, patient flow, lean healthcare, throughput, retail operations, automation boundaries, human touch, JINS, RIM, optometry, outpatient clinic, digital transformation

オペレーション設計、工程分離、ボトルネック、タスク・シフト/シェア、患者フロー、リーン、スループット、店舗オペレーション、自動化の範囲、接客の価値、JINS、RIM、視力測定、皮膚科、DX

脚注


  1. 厚生労働省「医師の働き方改革」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355.html ↩︎

  2. 厚生労働省委託事業「令和3年度 医師の働き方改革 タスク・シフト/シェア推進に関する資料」 https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/pdf/information/20220607_02.pdf ↩︎

  3. Hung et al., "Patient experiences after implementing lean primary care redesigns." https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8143684/ ↩︎

  4. JINS「ご購入時の手順」 https://www.jins.com/jp/guide/store/procedure.html ↩︎

  5. JINS「測定補助」 https://www.jins.com/jp/guide/store/measurement.html ↩︎

  6. JINS「コミットメント」 https://www.jins.com/jp/about/commitments.html ↩︎

  7. JINS「AIを駆使したメガネの次世代型ショールーミング店舗が本日オープン」(JINS BRAIN Lab.、2019年) https://www.jins.com/jp/topics_detail.html?info_id=150 ↩︎

  8. RIM loves MISAMO MUST BUY CAMPAIGN https://rim.jins.com/jp/lp/misamo26aw/ ↩︎

  9. JINS よくあるご質問「店舗の視力測定は無料ですか?」 https://faq-jp.jins.com/jp/faq/glasses/faq_detail.html?id=120 ↩︎

  10. "Using Lean Six Sigma techniques to improve efficiency in outpatient ophthalmology clinics." https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7792026/ ↩︎

  11. Improta et al., "Effects of Lean Healthcare on Patient Flow: A Systematic Review." https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32113632/ ↩︎

  12. JINS「『JINS AI』進化。新機能『レンズ診断』がJINS銀座店で本格始動」(2026年3月26日) https://www.jins.com/jp/topics_detail.html?info_id=1189 ↩︎ ↩︎

  13. JINS「遠近両用レンズ」 https://www.jins.com/jp/lens/progressive/ ↩︎

  14. JINS WEEKLY「メガネを買う時は『度数』『フレーム』『レンズ』のどれから決めるべき?」 https://weekly.jins.com/library/library28-buy-glasses.html ↩︎

  15. "Customizing customer journey in hotels: A focus on human touch." International Journal of Hospitality Management. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278431924002688 ↩︎