「ジルノ」への答え方でわかった、AIそれぞれの認知の癖
高速列車の愛称の話をしていた。つばめ、はやぶさ、サプサン、フレッチャロッサ、フレッチャルジェント。国ごとに命名のセンスが違って、聞いているだけで面白い。 そのなかでスイスの高速列車「Giruno(ジルノ)」の話になった。ロマンシュ語由来の名前で、猛禽類にちなむらしいというところまでは知っていた。「それってノスリのことじゃないの?」と、なんとなくAIに聞いてみた。
How AI Answered "Giruno" — And What That Revealed About Each Model's Cognitive Habits
著:霧星礼知(min.k)|mncc.info / Author: Reichi Kirihoshi (mncc.info)
高速列車の愛称の話をしていた。つばめ、はやぶさ、サプサン、フレッチャロッサ、フレッチャルジェント。国ごとに命名のセンスが違って、聞いているだけで面白い。
そのなかでスイスの高速列車「Giruno(ジルノ)」の話になった。ロマンシュ語由来の名前で、猛禽類にちなむらしいというところまでは知っていた。「それってノスリのことじゃないの?」と、なんとなくAIに聞いてみた。
複数のAIに同じ質問を投げてみたところ、全員が絶妙に違う形で間違えた。面白かったのは正解にたどり着けなかったことではなく、間違い方が一致しなかったことだった。
なお後で確認したところ、この名前自体、現地の解説でも訳語が割れていた。ロマンシュ語の「girùn」は資料によってブザード(ノスリに近い猛禽)とされたり[1]、ヒゲワシやチョウゲンボウとされたりしていて、スイスの放送局が「本当にノスリでいいのか」と疑問形で記事を出しているほどだった。SBB自身も命名の際にはブザードとして紹介しており[2]、つまり人間の側にもすでに解釈の揺れがある固有名詞に、AIはさらに違う形で反応していたことになる。
1. 三者三様の壊れ方
一つ目のAIは、物語を完成させにいった。「高速列車」「猛禽類」「ロシア」「サプサン」といった文脈の断片をつなぎ合わせて、存在しない答えを生成した。文章としては非常に自然で、知らなければそのまま信じてしまいそうな出来だった。
物語を完成させるというのが、このタイプの動き方だと思う。断片を放置せず、筋の通った一つの話に仕立て上げる。もっともらしさは高いが、その分だけ検証しないと危ない。
二つ目のAIは、固有名詞への確信が持てないと判断したのか、抽象化して会話を成立させにいった。「高速列車には速そうな名前が付けられることが多い」という一般論に着地して、具体的な誤りを口にすることは避けた。
抽象化して逃がす動き方は、細部では外れないが、知りたかった答えそのものにはたどり着かない。安全ではあるが、会話としては物足りなさが残った。
三つ目のAIは、周辺知識から類推してきた。猛禽類やロマンシュ語圏についての知識は広く持っているようで、それを使って答えを具体化しようとした。ただ、周辺知識同士が混線した結果、もっともらしい誤答という形に着地した。
類推によって具体化する動きは、知識量そのものは多いことが多い。それでも空白を埋めようとする力が働いた瞬間に、精度は落ちる。
2. これは知識不足の問題ではない
ロマンシュ語由来の固有名詞が難しいのは事実だ。話者数がスイス全体の0.5%に満たない少数言語で、しかも訳語自体が現地でも一定しない。
ただ、単なる知識不足の問題であれば、複数のAIの反応はもっと似通うはずだと思う。「わかりません」に近い答えに、全員が寄っていくはずだ。
実際にはそうならなかった。同じ未知の情報に対して、三者三様の補完が行われた。差が出たのは知識量ではなく、知らないものに対する向き合い方そのものだった。
3. ハルシネーションの正体は補完戦略にある
ここから見えてくるのは、AIが空白をそのまま放置するのが苦手だということだ。未知の情報に遭遇したとき、AIは何らかの形で埋めようとする。
整合的な物語を作る。安全な一般論へ逃がす。周辺知識からの類推で具体化する。動き方は違っても、根っこにあるのは同じ衝動だと思う。
ハルシネーションは、この補完戦略が働いた結果として表に出てくる副作用なのだろう。知識が足りないから間違えるのではなく、知らないという状態をそのままにしておけないから間違える。
4. 「わからない」との付き合い方を理解する
実務で重要なのは「このAIは正しいか」ではなく、「このAIは、分からないものをどう扱うのか」を把握しておくことだと感じている。
これは人間のメンバー理解と少し似ている。分からなくても何か答えを作ってしまう人。一般論に逃げる人。類推して断定してしまう人。誰と組むにしても、その人の癖を知っていれば対処のしようがある。AIについても同じことが言える。
AIを使うということは、答えを受け取ることそのものではないのだと思う。そのAIが何を知らないのか、知らないときにどう振る舞うのか、どのような形で空白を補完するのか。それを理解した上で道具として付き合うことが、結局のところ一番実用的なのだろう。
そのことを私は、スイス国鉄の高速列車「Giruno」の名前ひとつから教えられた。
☕️よかったらコーヒー一杯。
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著:霧星礼知(min.k) / リサーチ・構造支援:Claude Sonnet 4.6、ChatGPT、Perplexity / AI-assisted / Structure observation
参考文献
For international readers
This post reflects on a small linguistic mishap: asking several AI models about the etymology of "Giruno," the nickname of a Swiss high-speed train derived from the Romansh word for a bird of prey. Each AI got it wrong in a distinctly different way — one confabulated a coherent but false story, one retreated into safe generalities, and one over-extended from adjacent knowledge. The piece argues that hallucination is less about a lack of knowledge and more about each model's strategy for filling gaps when it encounters the unknown — a habit worth understanding before trusting any AI's answer.
Keywords: AI hallucination, cognitive habits, Giruno, Romansh language, high-speed trains, large language models, knowledge gaps, AI reliability
Wikipedia "SBB RABe 501" — ジルノの名称がロマンシュ語の「girùn」(ブザード、ヒゲワシ、チョウゲンボウのいずれかとされる)に由来する点を確認 ↩︎
railway-news.com "Stadler Giruno High-Speed Train for the Gotthard Receives Operating Licence" — SBBが「girùn」=「buzzard(ノスリ類)」として命名した経緯を確認 ↩︎